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  • くじけないで  

    2010年09月10日

    9/7の例会で山田直前会長の卓話の最後において紹介された詩の朗読部分です。
    鳥居さんに読んでいただきましたが読みてが感極まり・・・・。
    そこでブログにあげさせて頂きました。
    皆さんもどうぞじっくり読んでください。(英語版にできずすみません)
    セブン

    「くじけないで」
    柴田トヨ
    著者  柴田 トヨ(しばた・とよ)

    明治十四年 6月生まれ
    【夢】 自分の詩集が翻訳され、世界中の人に読んでもらう事

    ことば

    何気なく 言ったことばが
    人をどれだけ 傷つけていたか
    後になって気がつくことがある

    そんな時 わたしは急いで
    その人の 心の中をたずねて
    ごめんなさい
    と いいながら
    消しゴムと
    えんぴつで
    ことばを修正していく

    母 Ⅰ

    亡くなった母と同じ
    九十二歳をむかえた今
    母のことを思う

    老人ホームに母をたずねるたび
    その帰りはつらかった
    母をいつまでも見送る

    どんよりとした空
    風にゆれるコスモス
    今もはっきりおぼえている

    母 Ⅱ

    母のあとを

    風車を かざしながら

    追いかけていく

    風は優しく 陽はあたたかかった

    ふりむく母の笑顔に

    安どしながら

    早く大人になって 孝行したい

    そう思ったものだ

    母のとしを とうに越して

    今 私は

    初夏の風に 吹かれている

    若い母の声が聞こえる

    私 Ⅰ

    九十を過ぎてから

    詩を書くようになって

    毎日が 生きがいなんです

    体は やせ細って いるけれど

    目は 人の心を 見抜けるし

    耳は 風のささやきが よく聞こえる

    口はね とても達者なの

    「しっかり
    してますね」

    皆さん

    ほめて下さいます

    それが うれしくて

    またがんばれるの私

    思い出 Ⅰ

    子どもが
    さずかったことを
    告げた時
    あなたは

    「ほんとか うれしい
    おれはこれから
    まじめになって
    はたらくからな」

    そう 答えてくれた

    かたを並べて
    さくら並木の下を
    帰ったあの日
    私の 一番
    幸福だった日

    思い出 Ⅱ

    子どもと手をつないで
    あなたのかえりを
    待った駅
    大勢の人の中から

    あなたをみつけて
    手をふった

    三人で戻る小道に
    キンモクセイの甘い香り

    どこかの家から流れる
    ラジオのうた

    あの駅あの小道は
    今でも元気で
    いるかしら

    朝はくる

    一人で生きていくときめた時から

    強い女性になったの でも 大勢の人が

    手を差しのべてくれた

    素直に甘えることも 勇気だと わかったわ

    (私は不幸せ・・・)

    ためいきをついているあなた

    朝はかならず

    やってくる

    あさひも

    射してくるはずよ

    生きる力

    九十を超えた今一日一日が
    とても いとおしい

    ほおをなでる風

    友人からの電話
    たずねてくれる友達

    それぞれが私に
    生きる力を与えてくれる

    あなたに Ⅰ

    出来ないからって いじけてはだめ
    私にだって 九十六年間
    出来なかった事は山ほどある
    父母への孝行 子供の教育 数々の習い事

    でも 努力はしたのよ
    精いっぱい
    ねえ それが大事じゃないかしら

    さあ立ちあがって
    何かをつかむのよ
    悔いを 残さないために

    忘れる

    歳をとるたび

    いろいろなものを

    忘れてゆくような

    気がする

    人の名前
    いくつもの文字
    思いでのかずかず

    それを さびしいと
    思わなくなったのは
    どうしてだろう

    忘れてゆくことの幸福
    忘れてゆくことへの
    あきらめ

    ひぐらしの声が
    聞こえる

    くじけないで

    ねえ 不幸だなんて
    ため息をつかないで

    日ざしや そよ風は えこひいきしない
    夢は
    平等に 見られるのよ

    私つらいことがあったけれど
    生きていて 良かった

    あなたもくじけずに

    返事

    風が 耳元で
    「そろそろあの世に行きましょう」
    なんて 猫なで声でさそうのよ
    だから 私

    すぐに返事したの
    「あとすこしこっちにいるわ やり残した 事があるから」
    風は
    困った顔をして
    すーっとかえっていった

    秘密

    私ね 死にたいって 思ったことが
    何度もあったの

    でも詩を作りはじめて

    多くの人にはげまされた

    今はもう

    泣きごとはいわない

    九十八でも

    恋はするのよ

    夢だってみるの

    雲にだってのりたいわ

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